処暑(しょしょ)は、二十四節気という太陽の動きをもとにした季節の区分の一つで、黄経150度を太陽が通過する日が処暑の日です。
現在の暦(新暦=グレゴリオ暦)では、8月23日頃から9月7日頃までの約15日が処暑の時期です。
江戸時代まで使われていた旧暦(太陽太陰暦)では、7月・申の月の中気(月の後半という意味)のため七月中処暑とも称しました。
処暑の季節
処暑は、立秋から数えて2番目の秋の二十四節気です。
処暑とは、暑さがやむという意味があり、厳しい夏の暑さもようやく峠を越える時期になります。
昨今の酷暑ですので、まだ日中の暑さがやわらぐとまでは行きませんが、朝晩はめっきり過ごしやすくなります。
田んぼでは、稲が開花し実を結ぶ大事な時期に入りますが、台風が来る日として警戒される二百十日・二百二十日が巡ってくる時期でもあります。
台風で稲に被害が出ずに、無事に収穫を迎えられるように祈る「風祭」を行う地域もあります。
富山県の有名なお祭り、「おわら風の盆」も風神鎮魂と豊作を祈願して始められた「風祭」の一つです。
七十二候
二十四節気は、それぞれが約15日間ありますが、二十四節気をさらに3等分した七十二候という季節の区分があります。
処暑には、次の七十二候が含まれます。
処暑 初候 綿柎開(わたのはなしべひらく)
8月23日頃から8月27日頃まで。
柎(うてな)は、花の萼(がく)のこと。綿の実を包んでいた萼が開き始める頃です。
綿の実が熟してはじけると、白い綿毛が中から飛び出すように顔をのぞかせます。
処暑 次候 天地始粛(てんしはじめてさむし)
8月28日頃から9月1日頃まで。
この頃、ようやく暑さが収まり、夜更けがひんやりしてきます。
酷暑続きの近年では、日中の暑さは衰えを見せず、朝夕もわずかにしのぎやすくなる程度ということも多いですが。。。
処暑 末候 禾乃登(こくものすなわちみのる)
9月2日頃から9月7日頃まで。
田んぼの稲穂が実り始めます。
やがてたわわに実った黄金色の穂は、静かにこうべを垂れ収穫を待つのです。
処暑の食べ物
桃
春に花を咲かせた桃が実を結ぶのは7月から8月にかけて。
甘くみずみずしい桃は、贈答品としても人気があり、今ではすっかり夏の高級果物となってしまいました。
原産地の中国では、桃は邪気を祓い不老長寿を与える植物とされてきました。
今でも祝い事では、桃の実をかたどった壽桃(しょうたお)というお菓子を食べる習慣があります。
日本への渡来は大変古く、縄文時代・弥生時代の遺構から桃の種が出土しています。
また日本でも、桃は邪気を祓う力があるとして、古事記ではイザナギノミコトが桃を投げつけて鬼を退治したという神話が残されています。
無花果(いちじく)
アラビア半島が原産地のいちじくも6000年以上も前から栽培されていた記録が残されており、アダムとイブの禁断の果実はリンゴではなくいちじくとする説もあるほど、古くから食べられてきた果物です。
いちじくの旬は8月の終わりから10月にかけてとなりますが、果実と思って食べている部分は実はいちじくの花軸。
いちじくの花の形態は、隠頭花序(いんとうかじょ)と呼ばれるもので、肥大化した花軸が果実のように見えます。
では花はどこにあるかというと、花軸の中にある白い無数の粒がいちじくの花なのです。
漢字で無花果と書くのは花を咲かせないと誤解されたからなのですが、”いちじく”という名前は
- 中国名「映日果(えいじつか)」が訛って”いちじく”になった
- 一日一個ずつ熟す、1ヶ月で熟す「一熟」から”いちじく”になった
という説があります。
鰯(いわし)
日本の各地で獲れるため地域によって旬とされる時期が異なるのですが、いわしは一般に暑くなるにつれて脂がのって美味しくなると言います。
鮮魚としてだけではなく、煮干し(イリコ)、メザシ、チリメンジャコなどに加工されて日本の食卓を支えてきた魚です。
名前の由来は、
- 陸にあげるとすぐに弱って腐りやすいから”よわし”
- 貴族が食べない卑しい魚である”いやし”
と言われますが、漢字が魚偏に弱いと書くのは、腐りやすい魚であることから来ています。
かつては日本近海の漁獲量の3割を占めていましたが、漁獲量の減少につれて価格も高騰。
いわしがお手頃な魚というのも過去の話になりつつあります。
鮑(あわび)
産卵期に向けて身が肥える8月から10月があわびの旬です。
通常、2枚あるはずの貝がらが1枚しかないとして「合わぬ貝」からあわびという名になったと言われますが、それもそのはず、あわびは二枚貝ではなく巻貝の一種です。
あわびの貝がらはとても丈夫なことでも知られており、セラミックはハンマーでも簡単にわれないあわびの貝がらの構造をヒントに開発されたそうです。
裏側に美しい光沢があるあわびの貝がらは、螺鈿細工などの材料やカフスやネクタイピンなどの装飾品にも使われています。
処暑の時期の花
萩(はぎ)
秋の七草に数えられる萩ですが、萩というのはマメ科ハギ属の総称です。
日当たりの良い丘陵や野原に自生するほか多くの品種が栽培されていますが、現在、萩と呼んでいるのは、多くは「山萩」や「宮城野萩」という品種です。
古くから愛されており、万葉集に最も多く詠われることでも知られていますが、当時、萩は花ではなく草として扱われていたそう。
万葉の人々にとって、萩の葉の紅葉するさまは時の移ろいを、萩の葉におりる露ははかなさを象徴する存在でした。
- マメ科ハギ属
- 原産地は日本
- 開花時期は7月から9月
百日紅(さるすべり)
夏から秋まで花が楽しめることから「百日紅(ひゃくじつこう)」と、樹皮がはがれおちて、幹がすべすべになることから、”さるすべり”と名づけられました。
日本に伝わったのは江戸時代に入ってから。
一つ一つの花は、数日しか咲いていませんが、次から次へと花が咲くことから、長期間、咲いているように見える木です。
- ミソハギ科の落葉高木
- 原産地は中国南部
- 開花時期は7月から10月
撫子(なでしこ)
現在では夏の花の印象が強いなでしこですが、萩とおなじく秋の七草のひとつに数えられています。
日当たりの良い河原や野原に自生しており、「かわらなでしこ」というのが正式名称です。
つつましく楚々と咲く姿が愛らしく、”我が子を撫でるように可愛い花”から、撫子(なでしこ)という名前が付いたと言われています。
中国からセキチクが伝わり唐撫子(からなでしこ)と呼ばれたのに対して、大和撫子(やまとなでしこ)と呼ばれるようになり、清楚でつつましやかな日本女性を形容する言葉として使われるようになりました。
また、なでしこは
- 日本古来のなでしこが、花の期間が夏から秋までと長かった
- 中国原産の唐撫子が四季咲きの花だった
ことから、常夏(とこなつ)とも呼ばれており、源氏物語の帖名にもなっています。
当時は、庭に日本のなでしこ、中国のなでしこの両方を植えて楽しんでいたようで、源氏物語にもその様子が描かれています。
- ナデシコ科の多年草
- 原産地は日本・東アジア
- 開花時期は6月から9月
次の二十四節気は白露(はくろ)です