最近、1~2月のある時期に、旧正月で中国からの旅行客が大挙するというニュースが聞かれるようになりましたね。
お正月に“旧”がついているってどういうこと?お正月は1月1日でしょ?それに去年は違う時期だったような気もする。。。
それに、旧正月は日本では平日なのに、どうも中国などのアジア諸国では重要な気配までします。
一度気になってみると、旧正月についての疑問が次から次に出てきます。
そこで、本日は旧正月とは何なのか。
どうして日本ではお祝いしなくなったのかについてお伝えしていきます!
旧正月とは何?
旧正月とは、旧暦(太陽太陰暦)の1月1日のことです。
旧暦については、旧正月の日にちが毎年変わるところでもう一度詳しくお伝えしますが、日本でも1872年(明治5年)までは旧暦が公式の暦でした。
現在の暦は、旧暦に対して新暦とも呼ばれる太陽暦(グレゴリオ暦)ですが、日本は1873年(明治6年)1月1日にアジアの中でいち早く太陽暦に移り、お正月は新暦でお祝いするようになったのです。
新暦に改暦されて以降、旧暦のお正月のことを旧正月と呼んで、新暦のお正月と区別するようになりました。
ですが、同じ旧暦(太陰太陽暦)から新暦(太陽暦)に移った中国や韓国などは、今でも旧正月を新年のスタートとしてお祝いします。
なぜなら、東アジアでは、新年は“春から始まる”ものと長らく考えられてきたからなのです。
一年は“春から始まる”もの
お正月に交わす年賀状。「初春のお慶びを申しあげます」は代表的なあいさつ文の一つですよね。
お正月には、“初春”の他に、“迎春”、“新春”など、真冬の寒い時期で春なんてまだまだ先なのに、“春の訪れ”を喜ぶ言葉が多いです。
これこそ、長らく旧暦で暮らしてきた名残だったんですね。
旧暦には、冬至から2回目の新月の日を1月1日にするという決まりがあります。
冬至は毎年12月20日ごろです。月の満ち欠けは約29.5日。
つまり、旧暦1月1日は、新暦の1月21日から2月20日の間にめぐってくる計算です。
1月21日から2月20日は、二十四節気では大寒と立春にあたっています。
- 大寒は、1年でも最も寒い時期
- 立春は、寒さもピークを過ぎてこれからは暖かくなる時期
寒くて暗い冬が終わりに近づいて、春を迎えようとするタイミングに新年を迎える。
つまり、旧暦では一年の始まりは“春の訪れ”と同じ意味があったのです。
このことから、中国や韓国などでは、新暦に改暦した後も、“一年の始まりは春”という旧暦の考えに基づいて旧正月で新年を祝っているということが分かりますね。
今も旧正月を祝祭日としてお祝いしている国
- 中国
- 香港
- 台湾
- 韓国
- ベトナム
- モンゴル
- ブルネイ
シンガポールなど東南アジアの国々では、華僑の多いエリア(中華街)で旧正月が盛大にお祝いされますし、日本でも横浜や神戸の中華街では、旧正月のお祝いを見ることが出来ますよね。
ですが、中国・韓国と同じように、旧暦で長く暮らしてきた日本はどうして旧正月を祝わなくなったのでしょうか。
続いて見ていきましょう!
日本が旧正月を廃止した理由
日本が旧正月を祝わなくなった、はっきりとした理由は残されていません。
ですが、新暦に移った明治の初め、日本は一刻も早く欧米諸国に追い付いて近代国家の仲間入りを果たそうと必死だった時代です。(でないと不平等条約の改正もできないという切実な事情もありました)
その当時、『脱亜入欧(だつあにゅうおう)』という言葉があったぐらい、アジア的なものに限らず、日本の伝統文化も価値が無いとされていました。(結果、多くの貴重な文化財が国外に流出しました)
近代化を目指す国として、旧暦でお正月を祝うということはNGである。
おそらく明治政府は、そう判断したから、新暦で新年を祝うことになったと考えるのが自然ですね。
ですが、それまで、旧暦で暮らしてきた庶民の混乱もかなり大きかったそうですよ。
では最後に、旧正月の日にちが、どうして毎年変わるのか、その仕組みを見ていきましょう!
旧正月の日にちが毎年変わる仕組み
旧正月は旧暦の1月1日のことでしたね。
旧正月の日にちが毎年変わることを理解するには、旧暦(太陽太陰暦)について理解する必要があります。
旧暦と新暦は1年の長さが違う
旧暦(太陽太陰暦)は、月の満ち欠け(月齢)を元に作られています。
月が満ち欠けを繰り返す周期は約29.5日。
旧暦の1ヶ月は、月齢周期の29.5日を基準にして、1ヶ月を29日もしくは30日に、1年を12ヶ月と定めます。
一方の新暦(太陽暦)は、地球が太陽の周りを1周する時間(公転周期)を1年と定めた暦。1年は365日で、4年ごとに閏年が来ますよね。
旧暦と新暦の1年の長さを比べると
- 旧暦=29.5日×12ヶ月=354日
- 新暦=365日
旧暦は、新暦よりも1年の長さが11日短いために、旧正月の日にちもずれて毎年違う日になるわけですね。
最近の旧正月の日付を確認すると、2019年は2月5日でしたが、2020年は1月2 5日と10日早くなっています。
なるほど!とここで終わりたいところですが、毎年11日ずつ早くなっていくと、そのうち旧正月が夏に来るなんてことになってしまいます。
言い換えると、旧暦では1月なのに季節は夏ということが起こってしまいます。
そうなると暦としての役割も十分に果たせていないことになりますよね。
同じ時期に旧正月が来るようにずれを補正
月齢が基準の旧暦のずれを補正するために考え出されたのが閏月(うるうづき)というもの。
19年に4回、1ヶ月(閏月)を増やすことで、ずれを解消します。
つまり、2~3年に1回、1年が13ヶ月になる計算です。
太陽暦でも、毎年約0.25日のずれがあるので、4年に1回、2月が29日と1日多い閏年があるのと同じ発想です。
ただ、旧暦の場合は、ずれが1年に11日と大きすぎるので、1ヶ月丸々増やさないと追いつきません。
先ほど、2019年と2020年の旧正月の日にちを見ましたが、2020年は閏月のある閏年です。
ずれがどのように補正されるのか、ちょっと表で確認してみましょう。
西暦 | 旧正月にあたる日 | 閏月の有無 | 前年差 |
2018年 | 2月16日 | なし(平年354日) | |
2019年 | 2月5日 | なし(平年354日) | 11日早くなる |
2020年 | 1月25日 | あり(閏年384日) | 11日早くなる |
2021年 | 2月12日 | なし(平年354日) | 18日遅くなる |
2022年 | 2月1日 | なし(平年354日) | 11日早くなる |
2023年 | 1月22日 | あり(閏年384日) | 10日早くなる |
2024年 | 2月10日 | なし(平年354日) | 19日遅くなる |
2018年から2024年の間では、3年に1回閏月の補正が入っていますね。
結果、
- 閏月のない年の翌年の旧正月は10~11日早くなる
- 閏月のある年の翌年の旧正月が18~19日遅くなる
ため、旧正月は1月21日から2月20日の間、つまり春を迎える時期にちゃんと収まるのです。
まとめ
旧正月とは、旧暦(太陰太陽暦)の1月1日のこと。
日本の暦は、1873年(明治6年)1月1日に新暦に変わりましたが、近代化を急ぐ日本は、新暦でお正月を祝うようになります。
新暦のお正月と区別するために旧正月という名称が生まれました。
旧暦では、冬至から2回目の新月の日が1月1日になります。
新月から新月の期間は約29.5日(月齢周期)ですので、旧正月は1月21日から2月20日の間にやってきます。
1月21日から2月20日は、二十四節気では大寒と立春の期間に当たり、季節が春に向かう時期です。
旧暦では、“新年は春から始まる”とされていて、年始のあいさつに“初春”や“新春”など「春」を使うのは、その名残なのです。
中国や韓国では、今でも“新年は春から”という考えに基づいて、新暦に移った今でも旧正月で新年を祝っているのです。
また、月齢周期を基準とする旧暦の1年は354日しかありません。
新暦の1年は365日ですので、11日の差があります。
旧暦と新暦の11日の差が、毎年旧正月の日にちが違う原因となり、2019年は2月5日だった旧正月が2020年は1月25日と10日早くなるのです。
このずれを補正するために、旧暦では19年に4年、閏月を置きます。つまり2~3年に1度、1年が13ヶ月の年を置きます。
そうすると、
- 閏月のない年の翌年の旧正月は10~11日早くなる
- 閏月のある年の翌年の旧正月が18~19日遅くなる
ため、ずれが解消されて、毎年、必ず1月21日から2月20日の間に旧正月が収まるようになっているのです。
今回、どうして冬真っただ中の元旦に、“迎春”と言うのかが分かり、旧暦・旧正月の歴史の深さを感じました!a
岡田芳朗・阿久根末忠編著「現代こよみ読み解き辞典」柏書房