12月に入ると、「今日から12月、師走(しわす)です」と耳にすることがあります。
師走とは、明治の初めまで使っていた旧暦における12月の名称。
12月以外の月にも旧暦の名称があります。
日本独自のため、和風名月とも呼ばれています。
1月から12月まで、数字の月名も分かりやすくて便利ですが、響きの美しさや趣きの点では和風月名には及びません。
本日は、旧暦月名の意味や由来について、詳しくお伝えしていきます。
旧暦の月名とは
旧暦の月名は、和風月名と呼ばれる日本独自の各月の名称です。
月名の最も古い記録は、奈良時代・720年に完成した日本書紀。
旧暦の月名が、そんな昔から使われていたとは驚きです。
日本書紀では、“二月”、“三月”と漢数字の月名が記され、ふり仮名として“きさらぎ”、“やよい”と和風月名が登場します。
最も古い記録が平仮名であることが、旧月名の意味や由来を見ていくうえで重要なポイントとなります。
まずは旧暦の月名一覧から
和風月名の由来を詳しく見ていく前に、すべての月名を確認しておきましょう。
また、由来がはっきりとしない月名も多いため、通説となっている由来もここであわせてご紹介しておきます。
月 | 旧暦月名 | 一般的に知られている由来 |
1月 | 睦月(むつき) | お正月に親戚一同が集まって、楽しく遊ぶ「睦び月(むつびづき)」から |
2月 | 如月(きさらぎ) | 旧暦2月(3月)は、まだ寒い日が多く、衣をさらに重ね着する月という意味の「きぬさらにき月」から |
3月 | 弥生(やよい) | 草木が生い茂るという意味の「木草弥生茂る月(きくさいやおいしげるづき)」から |
4月 | 卯月(うづき) | 卯の花が咲く季節だから |
5月 | 皐月(さつき) | 田植えが始まり早苗を植える月「早苗月」が略された |
6月 | 水無月(みなづき) | 「無」は「の」という意味で、田んぼに水を引く「水の月」という意味 |
7月 | 文月(ふみづき) | 旧暦7月(8月)は稲の穂が実る時期という意味の「穂含月(ほふみづき)」から |
8月 | 葉月(はづき) | 旧暦8月(9月)は、木々の葉が落ちる月という意味の「葉落ち月」から |
9月 | 長月(ながつき) | 秋も深まり夜が長くなるという意味の「夜長月」から |
10月 | 神無月(かんなづき) | 出雲の国に神様が出かけて、各地域に神様がいなくなる「神無月(かみなしづき)」から |
11月 | 霜月(しもつき) | 旧暦11月(12月)は、冬が始まり「霜の降る月」だから |
12月 | 師走(しわす) | 年末は、普段は悠然とかまえている師と呼ばれる人たちも忙しく走る月だから |
ご覧になっていてお気づきになったかもしれませんが、旧暦の月と新暦の月は約1ヶ月のずれがあります。
つまり旧暦の1月は、現在の新暦の2月に相当するわけですね。
ですが、月名に関しては、新暦の2月を睦月とせずに、旧暦の月と同じく、1月を睦月と表します。
睦月に関しては、お正月に家族仲良くというのが意味ですから、新暦1月に持ってきても違和感はありません。
師走なんかもそうですよね。
ですが、季節が由来になっている月名は、新暦では季節があわないということが起こります。
結果、五月晴れのように言葉の意味そのものが変わってしまったなんてことも。
旧暦の5月は、時期としては新暦6月で梅雨のシーズンです。
五月晴れは、本来、梅雨の合間の晴れ間を意味していたのです。
それが、現在では行楽シーズンである新暦5月の気持ちよい晴天を指す言葉に変化しました。
では、それぞれの月名の由来と意味について、詳しく見ていきましょう。
旧暦の月名の由来と意味を深堀り!
奈良時代に編さんされた日本書紀にすでに登場していた旧暦の月名。
一般的に知られている由来は先ほどご覧いただいたものですが、あくまで有力な説という位置づけです。
ほとんどの月に、有力な説以外にも、由来とされる説が数多くあります。
さらには、月名に使われている漢字は、単なる当て字というケースもあり、なかなか奥深い世界です。
では、順番に見ていきましょう。
1月、睦月(むつき)の由来
1月の月名は、睦月(むつき)です。
1月といえば、お正月です。
お正月は、身分や年齢の上下に関わりなく、道で会えば新年のあいさつを交わし、親戚が一堂に集まって楽しく過ごします。
身内はもちろん、友人・知人とも親しく睦んで過ごすから、「睦び月(むすびつき)」となったというのが最も有力な説です。
「睦び月(むすびつき)」が、徐々に訛って「睦月(むつき)」に変わったとされます。
「睦び月」の他の説
- 1年が始まる「元つ月(もとつつき)」
- 草木が芽吹く「萌月(もゆつき)」
- 春の陽気が始まる「生月(うむつき)」
旧暦では1月は、早春の時期。
1月の月名の由来として、「萌月」「生月」があがるのは、旧暦の季節感ゆえです。
「睦月」以外の1月の月名
- 祝月(いわいづき)
- 初春月(はつはるづき)
- 建寅月(けんいんづき)
2月、如月(きさらぎ)
2月の月名は、如月(きさらぎ)です。
旧暦2月は、新暦では3月。
まだまだ寒い日が多く衣(きぬ)を重ね着する「きにさらにき月」が「衣重月」と短くなっていき、「如月」となったという説が一般的です。
如月と書いて、“きさらぎ”と読ませるのは、当て字です。
『如』という字が使われるようになったのは、紀元前2世紀の中国の書物にある「二月を如となす」という記述からではないかと言われています。
「衣重月」の他の説
- 草木の芽が張りだす「草木張月(くさきはりづき)」が“きさらぎ”に変化した
- 前年旧暦8月に飛来した雁が去り、ツバメが飛来する「来更来(きさらぎ)月」
雁は、2月(旧暦1月)には北に飛び立ちますが、3月(旧暦2月)になっても残っている雁がいたのでしょうか
いささか強引な説ですが、雁は和歌にもよく詠まれており、古くから親しまれてきて鳥でした。
「如月」以外の2月の月名
- 初花月(はつはなづき)
- 梅津早月(うめつさつき)
- 建卯月(けんぼうげつ)
3月、弥生(やよい)
3月の月名は、弥生(やよい)です。
草木が生い茂るという意味の「木草弥生い茂る(きくさいやおいしげる)」が、短く詰まり「弥生」となったと言われています。
他の月は、有力な説に対して異説があるのですが、3月弥生は、唯一、異説らしい異説がありません。
「弥生」以外の3月の月名
- 桜月(さくらづき)
- 春惜月(はるおしみつき)
- 建辰月(けんしんげつ)
旧暦3月は、今の4月、桜が咲く時期なのです。
また、暦の春は3月まで。
そのため、春惜月とも呼ばれています。
4月、卯月(うづき)
4月の月名は、卯月(うづき)です。旧暦の4月は、夏が始まる月にあたります。
卯月の由来は、卯の花が咲く時期である「卯の花の月」が定説ですが、疑問視する声が多い月名です。
- 12ある月名で、唯一花の名前が使われているが、卯の花はそこまで存在感のある花ではない
- 「うづき」が先で、「卯月」は当て字。卯月に咲くから、卯の花と名付けたのではないか
言われてみれば、確かにという気がします。(私も卯の花と聞いても、どんな花かピンときませんでした・・・。)
それに日本で愛されてきた花といえば、何といっても桜です。
桜を差し置いて、月名になるほどの花?というところでしょうか。
とはいえ、万葉集では、卯の花はよく詠まれています。
月名ができた当時はとても愛されていた花だった可能性もあります。
「卯の花の月」の他の説
- 十二支の4番目である“卯”から「卯月(うづき)」
- 田んぼに稲を植える「田植苗月(たうなえづき)」・「植苗月(なえうえづき)」からきた「植月(うづき)」
「卯月」以外の4月の月名
- 花残月(はなのこりづき)
- 陰月(いんげつ)
- 清和月(せいわづき)
5月、皐月(さつき)
5月の月名は、皐月もしくは早月です。
旧暦5月に、あちらこちらで田植が始まることから、早苗を植える月、「早苗月」が省略されて「さつき」になったというのが定説です。
この月名も、「さつき」の“さ”に意味があり、皐月・早月は、後から作った当て字と言われています。
「さ」は、神様にささげる稲を意味しており、稲を植える月として「さつき」となったようです。
定説の「早苗月」と、田植の月というところが共通しています。あながち当て字と決めつける必要も無いような気がしますね。
「皐月」以外の5月の月名
- 菖蒲月(あやめづき)
- 橘月(たちばなづき)
- 雨月(うづき)
旧暦5月は今の6月。
梅雨の季節のため、「雨月」とも呼ばれていました。
6月、水無月(みなづき)
6月の月名は、水無月(みなづき)です。
6月は梅雨なのに、水が無い?と思うのは、新暦の季節感です。
旧暦6月は今の7月ですので、梅雨ではなく夏になります。
また、「無」というのは、“無い”ということではなく、“~の”という助詞を意味している当て字です。
つまり水無月は「水の月」であり、田植の終わった田んぼに水を引く月の意味というのが定説です。
「水の月」の他の説
- 梅雨が終わって水が枯れてきた「水無月(みずなしづき)」
- 田植が済んだ田に水を張る「水張り月(みずはりづき)」
- 田植という大仕事が済んだ「皆尽月(みなつき)」
「水無月月」以外の6月の月名
- 鳴神月(なるかみつき)
- 葵月(あおいづき)
- 建未月(けんびげつ)
7月、文月(ふづき・ふみづき)
7月の月名は、文月(ふづき・ふみづき)です。
旧暦7月は、今の8月にあたります。
そろそろ、稲の穂が実る時期から、穂の含み月「穂含月(ほふみづき)」「含月(ふくみづき)」が由来とされています。
また、稲穂の実りと”文”の字が結びつかないため、文月も当て字ではないかと言われています。
「穂文月」の他の説
- 七夕に書物を開いで風に当てるしきたりから「文月(ふみづき)」
七夕の由来を定説とする意見もありますが、七夕が伝わったのは、“ふづき”と記されている日本書紀の完成以後のことです。
時代的に、「穂含月」が由来と考える方が自然ではないでしょうか。
ポイント
- 七夕月(たなばたづき)
- 秋初月(あきそめつき)
- 建申月(けんしんげつ)
8月、葉月(はづき)
8月の月名は、葉月(はづき)です。
8月と聞くと、真夏かと思ってしまいますが、旧暦8月は今の9月。
季節は秋です。
葉月も緑青々とした夏の葉っぱではなく、木の葉が紅葉して葉が落ちる「葉落ち月」が由来です。
「葉落ち月」の他の説
- 雁が飛来する月という意味の「初来月(はつきつき)」
「葉月月」以外の8月の月名
- 秋風月(あきがぜづき)
- 月見月(つきみづき)
- 燕去月(つばめさりづき)
旧暦8月15日は、十五夜・中秋の名月。
月見月は美しい月名ですね。