大寒(だいかん)は、二十四節気という太陽の動きをもとにした季節の区分の一つで、黄経300度を太陽が通過する日が大寒の日です。
現在の暦(新暦=グレゴリオ暦)では、1月20日頃から2月3日頃までの約15日が大寒の時期です。
江戸時代まで使われていた旧暦(太陽太陰暦)では、12月・亥の月の中気(月の後半という意味)のためが十二月中大寒とも称しました。
大寒の季節
大寒(だいかん)は、立冬から始まった冬の最後の二十四節気であり、かつ立春から始まる二十四節気の締めくくりの節気です。
寒さはいよいよ厳しく、年間の最低気温を記録する地域が多いのも大寒の時期。
水道設備の無かった時代、気温が低い大寒は雑菌が少なく水質の良い水を手に入れることができる時期でした。
水質の良い水を使えることと、気温が上下しないことから、大寒には味噌やお酒の「寒仕込み」が多く行われます。
普通の家庭でも大寒に汲んだ水を台所などに置くと、1年間火事にならないと信じられていたそうです。
七十二候
二十四節気は、それぞれが約15日間ありますが、二十四節気をさらに3等分した七十二候という季節の区分があります。
大寒には、次の七十二候が含まれます。
大寒 初候 款冬華(ふきのはなさく)
1月20日頃から1月24日頃まで。
「款」とは、極まる・果てを意味する漢字で、冬が極まる時期に咲く花としてフキノトウを指します。
雪が積もり凍てつく地面から芽吹くフキノトウに、春が近いことを感じさせられる頃です。
大寒 次候 水沢腹堅(さわみずこおりつめる)
1月25日頃から1月29日頃まで。
最低気温が氷点下まで冷え込みことが多い時期、沢には厚く氷が張りつめます。
大寒 末候 鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)
1月30日頃から2月3日頃まで。
この頃、鶏が春の気配を感じて、卵を産み始めます。
本来、鶏は日照時間が長くなる春から夏に産卵する鳥です。
鶏の産卵は、ヨーロッパでも春の訪れの象徴とされていて、イースターのシンボルに用いられてきました。
大寒の食べ物
節分豆
立春の前日、つまり大寒の最後の日は、季節が冬から春に変わる分け目の日、節分です。
節分には豆まきをし、その後に自分の年齢(数え年)の数だけ豆を拾って食べる節分豆の習慣があります。
豆まきは、平安時代に悪鬼・疫病を取り除くために大晦日の夜に行われていた「追儺(ついな)」と呼ばれる宮中行事が庶民にも広がったものです。
年の数だけ豆を食べるというのは、旧暦では立春が新年の始まりとされていて、年明けと同時に年を取るという「年取りの行事」に由来します。
豆まきの他に、柊にイワシの頭を刺す習慣は
- 柊の葉のとげが触ると痛い
- イワシの頭が臭い
ことを嫌って鬼が逃げていくと考えられていたことから生まれたものです。
昨今、節分と言えば恵方巻ですが、こちらは江戸時代に始まった比較的新しい習慣です。
蕗の薹(ふきのとう)
ふきのとうは、日本を原産地とする山菜で、今も全国の山野に自生する姿が多く見られます。
春先にいっせいに芽吹くふきのとうは、春の訪れを象徴する食材とされてきました。
食用としているのはつぼみの部分ですが、ビタミン・カリウム・食物繊維が豊富で、苦み成分には新陳代謝を活発にする効果があります。
水菜
水菜は、原産地の京都を中心に栽培されてきたため、「京菜」と呼ばれることもあります。
霜が降りる時期が一番おいしくなると言われており、水菜の旬はもちろん冬です。
野菜が不足しがちな冬場に収穫できることから、関西では古くから親しまれてきました。
独特の苦味と香りが、魚や肉の臭みを消してくれるため、鍋物の具材としてよく使われてきましたが、近ごろではサラダや和え物にして食べることも増えています。
金柑(きんかん)
小粒で金色が美しい金柑は、1月から3月にかけてが、露地物の旬の時期に当たります。
皮ごと食べると、金柑のほのかな苦味と甘みが絶妙のバランスで味わえますが、砂糖漬けや蜂蜜漬け、甘露煮、ドライフルーツなどに加工されることも多い果物です。
咳やのどの痛みを止める民間薬として用いられてきた歴史もあります。
現在も金柑を使ったのど飴が市販されていますね。
寒鰤(かんぶり)
脂がのった旬のぶりを指して、特に「寒鰤」と呼びます。
ぶりは、成長につれて呼び名が変わる出世魚ですが、成長すると体長1mを超える大型魚です。
日本の沿岸各地で水揚げされますが、富山湾で水揚げされる寒鰤が美味しいことで有名ですね。
その富山県西部では娘が嫁いだ年の暮れに、嫁ぎ先の出世を願って、娘の嫁ぎ先に寒鰤1尾まるごとを歳暮として贈られてきました。
逆に九州北部では、嫁ぎ先から嫁の実家へ、娘さんは「嫁ぶりがいい」ですよとして寒鰤を送る習慣があります。
いずれにせよ、寒鰤の美味しさには、両家を取り持つ力があったということなのでしょうね。
公魚(わかさぎ)
厚く張った氷に開けた穴に糸を垂らすわかさぎ釣りの光景が、冬の風物詩として、時々ニュースに流れることがありますね。
江戸幕府11代将軍徳川家斉に霞ケ浦のわかさぎを年貢として納めたところ、公儀御用達の魚となったことから「公魚」と書くようになったと伝わります。
魚の中では珍しくビタミンAを含みますが、特筆すべきはカルシウムの多さ。
1尾につき100mgのカルシウムが含まれており、魚の中でもトップクラスを誇ります。
わかさぎ6~8尾で1日に必要なカルシウム量が摂取できるとも言いますので、旬を逃さずに食べたいですね。
大寒の時期の花・植物
椿(つばき)
椿の花は、万葉の時代から愛されてきましたが、茶の湯が誕生してからは「茶花」として用いられるようになり、日本を代表する花の一つです。
つばきという名前は
- 厚みのある葉から「あつば木」
- つややかな葉から「艶葉木(つやばき)」
- 光沢のある葉から「光沢木(つやき)」
と、いずれも花よりも葉っぱの美しさを由来とする説が有力です。
日本に来ていたオランダ商人が17世紀にヨーロッパに紹介し、19世紀には園芸植物として流行しました。
その後、アレクサンドル・デュマ・フィスの著作でありオペラとしても人気の高い「椿姫」にヒロインの好きな花として登場しています。
- ツバキ科の常緑高木
- 開花時期は2月から4月
- 原産地は日本、台湾、朝鮮半島
南天(なんてん)
南天は、初夏に白い小さな花を咲かせますが、花よりも赤い実が観賞用に愛されてきた木です。
魔をはらう力がある赤色であることと、「難を転じる」に通ずることから、縁起の良い木として玄関や鬼門・裏鬼門に植えられてきました。
同じ赤い実をつける万両や千両の葉が、厚みがあって、ふちがギザギザしているのに対して、南天の葉は細くて薄いという特徴があります。
南天の実と葉は、咳止めや解熱の作用がある生薬としても有名で、金柑同様、「南天のど飴」が市販されていますね。
- メギ科の常緑低木
- 開花時期は6月から7月
- 原産地は日本・中国
蝋梅(ろうばい)
原産地の中国では、蝋梅は、梅・水仙・椿とともに「雪中の四花」と呼ばれています。
日本には江戸時代に入ってきましたが、厳しい寒さの中、香り高い花を咲かせる花として、庭木や盆栽に珍重されるようになりました。
梅に似た花を咲かせることと、半透明の蝋細工のような光沢のある花びらを持つことから蝋梅という名前がつきました。
年末から咲き始め、満開となるのは1月下旬ごろ。
10枚前後の薄黄色の透けるような花びらが重なり合うようにして、葉のない枝に咲く蝋梅は、春の訪れを告げる花の一つです。
- ロウバイ科の落葉低木
- 開花時期は12月中旬から2月
- 原産地は中国
次の二十四節気は立春(りっしゅん)です