日常の生活で、旧暦が必要になることは、ほぼありませんよね。
旧暦というものに気が付くのも、旧暦も記載されているカレンダーを目にしたり、ニュースで今日は旧正月ですと言われているのを聞いたりするときぐらいではないでしょうか。
ですが、旧暦について知ると、旧暦に由来する行事やしきたりが多いことがよく分かります。
例えば、十五夜と呼ばれる中秋の名月もそうですし、七夕がなぜ梅雨時なのかも、旧暦について知ると”なるほどね”と思えます。
本日は、旧暦とは、どんな暦について、わかりやすくお伝えしていきます。
旧暦とは?
もし、誰かに、旧暦とは何?と訊かれたら、次のように答えればOK!です。
月の満ち欠けを基準に作られた太陰太陽暦のことで
日本でも明治の初めまで使われていた
現在、私たちが日常使っている暦は、公転周期(地球が太陽を1周する時間)を基準とするグレゴリオ暦です。
旧暦に対して新暦と呼ぶことも多いですね。
歴史をひもとくと、日本に初めて暦というものが入ってきたのは、飛鳥時代(592~710年)です。飛鳥時代から明治5年(1872年)に入って新暦に変わるまで、実に1000年以上を旧暦が公式の暦でした。
あらためて考えると驚いてしまうのですが、新暦に変わってから、まだ150年ほどしか経っていないのです。
アジアの中では日本が最初に新暦に切り替えたのですが、現在は中国も韓国もすべて新暦に切り替えています。
なぜ、どの国も、それほど長い年月使っていた旧暦から新暦に切り替えたのかというと、新暦の方が暦として優れていたからなのです。
詳しく見ていきましょう!
旧暦は季節がずれていく
現在の暦であるグレゴリオ暦は、地球が太陽を1周する時間、約365.24日を1年とする太陽暦です。
これが何を意味するかというと、去年と今年の7月25日では太陽の昇る高さが同じであり、季節の巡りにズレが発生しないということです。
気象条件に左右はされはしても、4月から5月が春で、6月は梅雨、7月から8月は夏という大枠の季節が変わらないということですね。
新暦と旧暦の1年の長さ
では、旧暦ではどうでしょうか。
旧暦の基準となっているのは月の満ち欠けでしたね。
旧暦の1ヶ月は、月が満ち欠けする期間である約29.53日。旧暦も新暦と同じく1年は12ヶ月ですので、1年が何日になるか計算してみましょう。
朔望期間(月が満ち欠けする期間)=
約29.53日旧暦の1年=約29.53×12=約354日
新暦と旧暦では、1年に11日の差があるということですね。
実際に、旧暦の7月25日で確認すると、新暦の日付が11日ずつ早くなっていることがよく分かります。
西暦 | 旧暦 | 新暦 |
2017年 | 7月25日 | 9月15日 |
2018年 | 7月25日 | 9月4日 |
2019年 | 7月25日 | 8月25日 |
この調子でいくと、10年経ったら110日早くなるので、7月は夏だったはずが、春?なんてことが起こるわけです。(そんなことにならないよう閏月という仕組みがあります。詳しくは後ほど)
新暦と比べると、かなり旧暦は不便に感じられます。新暦が世界中で使われているのも納得です。
ですが、旧暦も毎年約11日発生するずれを放置していたわけではありません。
ずれを補正する閏月というものを作り出して調整していました。
1年の長さを調整するための閏月
太陽暦である新暦にも4年に1度、2月が29日まである閏年があります。
新暦の場合、地球が太陽の周りを1周する時間365.24日に対して、1年の長さを365日としていますので、4年に1回、1日増やすだけで、ずれが修正可能です。
旧暦は、先ほども確認したように毎年約11日もずれていきます。
このずれを解消するために、19年に7回(約3年に1回)、閏月を入れて13ヶ月になる閏年を置くようにしていました。
この調整のおかげで、太陽暦とのずれはきれいに解消するのですが、19年もかかるというのも大変な話です。
また閏月は、新暦の閏年2月29日のように、どの月が増えるかというのも決まりがなく、年によって異なるという複雑なものでした。
季節を知るために作られたのが二十四節気
閏月を作って、1年が11日ずつずれていくことは調整できました。
ですが、閏月では毎年の暦と季節のずれを解決することはできません。
暦から、正確な季節が分からないとなって、最も困ったのが農民です。
旧暦は、同じ日にちが新暦で見ると1ヶ月の範囲で動きます。
種をまく時期が1ヶ月もずれてしまっては、実るものも実りません。
季節のずれを補うために考え出されたのが、立春、夏至、春分などで知られる二十四節気です。
二十四節気は、地上から見た太陽の軌道を24等分して決めますので、季節を知る手がかりとすることができたのでした。
七夕などの行事は旧暦の季節の変わり目を意味していた
端午の節句や七夕など、今も季節ごとに行う行事は多いですね。
実は、これら伝統行事は、旧暦の日付を元に作られたものです。
ですが、明治になって新暦に変わると、ほとんどの伝統行事が新暦の日付で行われるようになりました。
旧暦と新暦は、1年の長さも違いますが、1年の始まりも1~2ヶ月のずれがあります。そのため行事と季節がちぐはぐになるという現象が起こってしまいました。
7月7日の七夕を例にあげると、旧暦の7月7日は新暦では7月末から8月下旬の間です。
新暦7月7日は梅雨真っただ中で、天の川が見えることが珍しいですが、旧暦の7月7日には、雨の心配もなく天の川もはっきり見えたことでしょう。
もう一つ例をあげると、お正月を迎えることを迎春・新春と“春”と表現すること。
旧暦では、一年は春から始まるもので、冬至から2回目の新月の日を1月1日にするという決まりがあります。
これを新暦の日付にすると、1月21日から2月20日の間に、旧暦1月1日が来ます。
新暦1月1日は、春の気配は全くありませんが、旧暦1月1日は1月下旬から2月下旬ですので、寒さは残っているものの梅が咲くなど春の気配を感じられる時期です。
お正月に、迎春、初春と、“春”を使うのは、旧暦の名残だったのです。
ほとんどの行事は、日付に意味があるので、新暦の日付で行われるようになった一方、新暦の日付にすると意味が無くなる行事は、今も旧暦のまま行われています。
ただ、旧暦で行われる行事は、とても数が少なくて、中秋の名月(十五夜)と十三夜ぐらいです。
新暦の方が、毎年同じ日付で合理的といえば合理的なのですが、少し寂しい気もしますね。
ですが、暦としての分かりやすさは、新暦の方が断然上です。
明治維新を迎え、近代国家への道を歩み始めた日本が、新暦に改暦することになったのは、至極当たり前のことだったのです。
旧暦から新暦へ変わったのも近代化だった
明治維新以降、太陽暦を使う欧米諸国との国交が本格的に始まると、それまで使っていた旧暦の不便さが目立つようになっていきます。
会議の日程にしても、条約に署名する日付にしても、日付をめぐるトラブルが絶えませんでした。
太陽の方が便利ということも分かっていましたし、明治政府にとって頭の痛かった不平等条約改正のためにも、太陽暦を採用している方が近代国家と主張できるというメリットもあったのです。
そして、明治5年(1872年)11月9日に、12月3日を明治6年(1873年)1月1日として、太陽暦に移行することが発表されます。
ですが、この改暦は、庶民にとっては寝耳に水な急な話。すでに翌年の旧暦カレンダーも販売されていた時期の改暦だったのです!
確かに、新暦の導入は時間の問題でしたが、明治政府が改暦を急きょ断行した裏には財政難というのっぴきならない事情があったのです。
当時、政府の財政を担当していた大隈重信が記した『大隈伯昔日譚(おおくまはくせきじつたん)』に事の真相が残されています。
- 明治6年は閏月がある年だったので、そのまま行けば官僚に13回月給を支払わなければならなかった
- さらに旧暦明治5年12月3日を新暦の明治6年1月1日にすれば、12月は2日しかないので12月分の給料も支払わなくてもよい
近代化を急いでいた明治政府は、それだけ財政事情が厳しかったのですね。
それにしても、12月のお給料無しというのは、今なら労働問題に発展しそうな話です(笑)。
まとめ
旧暦とは、月の満ち欠けを基準に作られた太陰太陽暦のことで、日本でも明治の初めまで使われていた暦です。
旧暦では、1ヶ月の長さは、月の満ち欠けする約29.53日。1年の月数は、新暦と同じく12ヶ月あります。
これを計算すると、旧暦の1年=約29.53日×12=約354日です。
現在、使われている新暦の1年は、地球が太陽の周りを1周する時間を基準としている365日。
新暦と旧暦では、1年の長さに11日のずれがあります。
結果、旧暦の日にちを新暦に置き換えると、去年と今年では11日早くなるという現象が起こってきます。
1年で11日のずれを解消するために、作られたのが閏月という仕組み。
旧暦では19年に7回(約3年に1回)、1年が13ケ月になる閏年がありました。
ですが、閏月でも解決できなかったのが、毎年の季節のずれです。
正確な季節が分からないと、困るのが農業です。種を蒔く時期が1ヶ月ずれては実るものも実りません。
旧暦と季節のずれを解消するために作られたのが、立春、春分、夏至などの二十四節気です。
昔の人は、月の満ち欠けを暮らしのリズムにしつつ、閏月や二十四節気などの工夫を取り入れて生活していたのですね。
また、七夕など、今も親しまれている伝統行事も旧暦の季節の変わり目を意味しています。
日々の生活では旧暦は使われなくなりましたが、今も私たちの生活に息づいていることが分かりますね。
【参考図書】
岡田芳朗・阿久根末忠編著「現代こよみ読み解き辞典」柏書房
三須啓仙著「暦の力で運を興す 興運のススメ」説話社