穀雨(こくう)は、二十四節気という太陽の動きをもとにした季節の区分の一つで、黄経30度を太陽が通過する日が穀雨の日です。
現在の暦(新暦=グレゴリオ暦)では、4月20日頃から5月4日頃までの約15日が穀雨の時期です。
江戸時代まで使われていた旧暦(太陽太陰暦)では、3月・辰の月の中気(月の後半という意味)のため三月中穀雨とも称しました。
穀雨の季節
穀雨(こくう)は、立春から始まった春の最後の二十四節気です。
穀雨とは、百穀をうるおす春の雨のこと。春の暖かく煙るような雨は、田畑をうるおし穀物など植物の成長を助けてくれる恵みの雨です。
また穀雨になると霜が降りないと言われることもあり、農家では安心して種まきをできる時期となります。
春先の雨が、気圧配置の関係で長引くことがあります。菜の花が盛りの時期であることから、春の長雨は菜種梅雨とも呼ばれます。
穀雨を経て、変わりやすい春の天気も安定しだし日差しも初夏のまぶしさを感じさせるようになります。
季節は徐々に夏へと移っていきます。
七十二候
二十四節気は、それぞれが約15日間ありますが、二十四節気をさらに3等分した七十二候という季節の区分があります。
穀雨には、次の七十二候が含まれます。
穀雨 初候 葭始生(あしはじめてしょうず)
4月20日頃から4月24日頃まで。
葭(あし)は葦(あし・よし)のこと。川岸や湖畔といった水辺に葦が芽吹きだす頃を迎えます。
干潟や河川の下流域で生育する葦は、水を浄化する力がある植物です。
穀雨 次候 霜止出苗(しもやみてなえいずる)
4月25日頃から4月29日頃まで。
気候も安定し、農作物に被害を与える霜の降りる心配が無くなり、田んぼで稲がすくすくと生長する時期です。
穀雨 末候 牡丹華(ぼたんはなさく)
4月30 日頃から5月4 日頃まで。
大輪の牡丹が花開く頃です。
優しい春の花から、色鮮やかな夏の花の季節が始まります。
穀雨の食べ物
鯵(あじ)
鯵は、味が良いことから”鯵(あじ)”という名前がついたと言われています。
暖流に乗って日本周辺を回遊しながら生息しており、季節を問わずに水揚げされますが、脂ののる春先から夏にかけて旬を迎えます。
食卓への登場頻度も高い「アジの開き」は、天日干しされることで身が引き締まり、味が凝縮されて美味しくなるという先人の知恵が詰まった食べ方です。
鮎魚女(あいなめ)
白身魚の高級魚の一つである鮎魚女。
名前の由来は、
- 鮎のように縄張りをもつ「鮎並」が転化した
- 形が鮎に似ているので「鮎魚女」
- 賞味すべき美味な魚である「愛な魚」
など諸説あります。
産卵期に向けて栄養を蓄える春から夏にかけてが、脂がのっておいしい時期です。
中国地方では特に人気が高く、「籾種を買う金をはたいてでも買え」というのだとか。そのため、「籾種失い」という別名まであるほどです。
栄螺(さざえ)
磯の荒い日本全国の沿岸に生息している栄螺(さざえ)。
殻を家に見立て「小家(ささえ)」から、その名がついたという説があります。
産卵期を迎える春から夏にかけてが、栄養をたくわえて最もおいしくなる旬です。
採れたての栄螺を浜辺で焼いて食べる光景が、かつては初夏の風物詩でもありました。
いちご(苺)
ハウス栽培が発達して冬に多く出回るようになりましたが、露地栽培のいちごの旬は3月から5月にかけて。
春の暖かな時期に人気のあるのがいちご狩りです。
姿の可愛さと甘酸っぱさから人気の高い果物ですが、小粒のいちご10粒で1日に必要なビタミンCがとれるほどで、栄養の点でも侮れません。
穀雨の時期の花
ライラック
寒さに強く花の時期が長いライラックは、寒い地域でよく見かける花で、日本では北海道の公園や街路樹として愛されています。
フランスでは、リラの花として親しまれており、日本においても紫丁香花(むらさきはしどい)という和名があります。
通常、4つの花冠の先が、5つになっているものは「ラッキーライラック」といい、幸運の印として恋のおまじないに使うのだそうですよ。
- モクセイ科の落葉花木
- 原産地はヨーロッパ南東部
- 開花時期は4月から5月
山吹(やまぶき)
山吹の花の深みのある黄色は、そのまま”山吹色”として日本の伝統色に数えられています。
細い枝が風に揺られる様子から、「山吹」という名前になったとされ、万葉の昔から愛されてきた花です。
京都・嵐山にある松尾大社には3000本もの山吹が植えられており、日本でも有数の山吹の名所として知られています。
- バラ科の落葉低木
- 原産地は日本・中国
- 開花時期は4月から5月
葦牙(あしかび)
葦は、世界でも最も分布の広い植物の一つで、日本でも各地の水辺に自生しています。
葦牙(あしかび)とは、葦の若芽のこと。春になり、水面に葦の新芽が点々と顔を出す様子を牙に見立てて、葦牙と呼ぶようになりました。
古事記に、天地が混とんとする中、水辺の葦牙が萌え出て神が現れたという伝承が残されています。
そこから、古代の日本を指して「葦原の国(あしわらのくに)」と呼ぶこともあります。
奈良時代になり、”あし”では「悪し(あし)」に通じて縁起が悪いとして、”よし”と呼ばれるようになりました。
- イネ科の多年草
- 原産地は世界中の温帯から熱帯地域
- 開花時期は8月から9月
木瓜(ぼけ)
濃い紅色から淡い紅色、白色まで、多彩な色を持つ木瓜は、梅に似た五弁の花を咲かせます。
秋に実るリンゴに似た固い果実は、果実酒や漢方薬に用いられます。
- バラ科の落葉高木
- 原産地は中国
- 開花時期は3月中旬から5月上旬
牡丹(ぼたん)
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と、美しい女性に例えられる牡丹。
色鮮やかで大輪の牡丹の花は、中国でも「花王」と呼ばれ、華やかさの象徴とされています。
日本に渡来したのは8世紀ですが、薬用植物として伝わったそうです。
江戸時代に入ると、品種改良によって白・紅・紫・黄色と花の色も増えましたが、現在栽培されている品種は明治時代以降の品種改良によって誕生したものがほとんどを占めています。
品格のある美しい姿から、菊・葵に次いで紋章に用いられている花でもあります。
- ボタン科の落葉低木
- 原産地は中国
- 開花時期は4月下旬から5月上旬
次の二十四節気は立夏(りっか)です